『嵐が丘』の日本版は河野多恵子先生の戯曲版、吉田喜重監督の映画版、そして水村美苗氏の戦後日本版など多彩ですが、ここに宮部みゆき氏の時代劇怪談版が加わりました。
作品は『おそろし』(2008年ハードカバー、2010年新人物往来社より新書版)で、江戸時代の商家を舞台に、怪異な話を聞き取り、霊に憑かれた人を救うことを仕事にする若い娘を主人公としています。つまり一種のカウンセラーなのですが、彼女がその能力を身につける前にはあるトラウマをくぐっているので、その設定に『嵐が丘』の状況が使われています。
宮部氏の巧みな筆で、なかなかの迫力があります。またそこには仏教的な救いがあり、原作との相違を考えるのも面白いでしょう。
『おそろし』は「三島屋変調百物語」というシリーズの第一作で、シリーズ第二作が今年7月『あんじゅう』と言う題で出ていますが、ここではもちろん、『嵐が丘』の設定は繰り返されません。
(海老根宏)